経験した人でないと、そのつらさはわからないという手足のしびれや違和感や痛み。
一時的な治療で症状が緩和しても、また元の状態に戻ってしまう・・・。
そんな悩みを抱える人も多いようです。中医学の知恵を活かして根本から原因を取り除き、不快な症状を改善しましょう。
根本から症状を改善
何もしていないのに手足がジンジンとしびれる、何だかムズムズする感じがする・・・。
このような手足の感覚異常は「寒さによる冷え」「気(エネルギー)・血の不足」「血行不良」「肝・腎の虚弱」などが主な原因だと中医学では考えます。
冬の気候やクーラーなどの寒さで身体が冷えると、「気」と「血」の流れが悪くなり、しびれや痛みを引き起こす直接的な原因となります。
また、体内の気・血が不足している人、症状の長期化などで血行不良を起こしている人は、手足に十分な気・血を巡らせることができず、組織の栄養不足や冷えを招いて不調が起こります。
更年期以降の人は、五臓の「肝」「腎」の衰えが原因になることもあります。肝は筋(腱、筋膜、じん帯)、腎は骨の状態とそれぞれ深く関わっているため、加齢などの影響で肝・腎の働きが低下すると、しびれや違和感などの不調が起こりやすくなるのです。
手足の不快な症状は日常的に悩ませられることも多く、精神的にも大きなストレスとなります。
症状が重くなると痛みを伴うこともあり、手足が動きにくい、歩行困難といった運動障害につながる可能性もあります。
がまんできる程度の不快感でも、症状が軽いうちに改善できるように積極的に対処しましょう。
基本は「温」「養」「通」の3つ
手足のしびれや違和感の改善は、「温」「養」「通」の養生を中心に行います。身体を温める、体内の気・血や五臓の肝・腎を養う、滞った気・血の流れを通じさせる。この3つをポイントに体質を整えて不快な症状を根本から取り除きましょう。
【1】温める:寒さに弱い「冷えタイプ」
中医学には、「寒さは気・血の流れを滞らせる」「気・血の流れが滞ると痛みがおこる」という基本的な考えがあります。
手足のしびれや違和感といった症状も、寒さによって体が冷えて体内の気・血の流れが滞って起こる不調の一つです。
このタイプの症状は、痛みを伴うこともあるので要注意。基本的には身体を温めることで症状が和らぐため、少しでも「寒い」「身体が冷えた」と感じたら、油断せず早めの対応を心がけましょう。
また、日ごろから『冷えない体づくり』を心がけ、身体を温める習慣を身に付けることも大切です。
◆気になる症状
手足のしびれ・違和感・痛み、手足の冷えや寒さで症状が悪化し温めると緩和する、顔色が白い、寒がりなど
◆食養生:寒さを払い、身体を温める食材
シナモン、しょうが、ネギ、ニラ、紅茶、フェンネル、山椒の実、八角など
◆よく用いられる漢方薬
桂枝加朮附湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯など
【2】養う:疲れやすい「気血不足タイプ」
「血」は全身を巡って組織に栄養を与え、身体を温める働きをしています。また「気」は身体のエネルギー源となるほか、血を推し流し、血流をスムーズに保つ役割を担っています。
こうした働きを持つ気・血が不足していると、手足まで十分に気・血を巡らせることが出来ません。その結果、組織の栄養不足や冷えなどを起こし、手足のしびれや違和感といった不調につながるのです。
このタイプの人は、エネルギー不足で疲労感や息切れを感じやすくなります。疲れると手足の不快な症状も強く出てしまうため、気・血を十分に養いしっかり体力をつけましょう。
◆気になる症状
疲れると手足のしびれ・違和感が強くなる、手足の冷え、疲労感、息切れ、めまい、動悸、不眠、脱毛、カゼを引きやすく治りにくい、顔色が白い、足がつりやすいなど
◆食養生:気・血を養い、体力をつける食材
豚のひれ肉、豚足、鶏肉、鮭、紅茶、クコの実、なつめ、黒豆、人参、もち米など
◆よく用いられる漢方薬
婦宝当帰膠、十全大補湯、芍薬甘草湯、補中益気湯、参茸補血丸、双料参茸丸など
【3】通じさせる:慢性化に注意「血行不良タイプ」
中医学では、不調が長く続くと「瘀血(おけつ)」=血行不良を起こしやすくなると考えます。そのため、手足のしびれや違和感が長引いている人は、症状の出ている個所に瘀血が発生している可能性もあります。
瘀血の状態は痛みの症状につながり、関節を動かしにくいなど運動障害を起こしてしまうこともあります。放っておくと症状の慢性化にもつながるため、我慢できる程度の症状でも、しっかり対処・改善するよう心がけて下さい。
その他、ストレスで「気」の流れが滞っている人、事故の後遺症がある人なども瘀血を起こしやすくなっているので注意しましょう。
◆気になる症状
痛みを伴う手足のしびれ・違和感、症状の長期化、夜間の症状が強いなど
◆食養生:滞った血の巡りをスムーズにする食材
紅花、玉ねぎ、らっきょう、なす、よもぎ、青味魚、桃など
◆よく用いられる漢方薬
冠元顆粒、疎経活血湯、逍遥顆粒、加味逍遙散、血府逐瘀湯など
~加齢による「肝腎虚弱タイプ」~
五臓の「肝」は筋(腱、筋膜、じん帯など)の維持や生成、「腎」は骨の維持や生成と、それぞれ密接に関係しています。そのため、年を取って肝や腎の働きが衰えてくると、骨や関節、筋力などの力も低下して足腰が弱くなる、手足にしびれや違和感を感じるといった不調が起こりやすくなるのです。
こうした不調は老化症状の一つなので、更年期以降の人は特に注意が必要です。生涯を元気に過ごすためにも積極的に肝・腎を養い、骨や関節などの運動機能を健やかに保つように心がけましょう。
◆気になる症状
手足のしびれ・違和感の長期化、足腰が弱い、力が入らない、腰痛、膝痛、関節痛、関節が動きにくい、めまい、耳鳴り、物忘れ、白髪、頻尿など
◆食養生:肝・腎を養い、元気にする食材
くるみ、黒ゴマ、松の実、桑の実、山芋、エビ、ニラ、羊肉など
◆よく用いられる漢方薬
独歩顆粒、八味地黄丸、杞菊地黄丸、牛車腎気丸、海馬補腎丸、還精など
暮らしの養生法
・毎日ストレッチをして身体を柔軟に保つ
・ウオーキングなど、日常の適度な運動で体力をつける
・冷たい飲食はなるべく控えめにする
・お風呂は湯船にゆっくり浸かり、身体を温めて血行を良くする
・足の裏のツボ「湧泉」を刺激して足の冷えなどを和らげる
「温」「養」「通」をポイントに体質を整えて、症状を根本から改善していきましょう。
【この記事を書いた人】
創業明治34年 漢方薬の西山薬局
四代目 薬剤師 西條ゆみこ
漢方薬局に生まれ幼少期から生薬に囲まれて過ごす
大学生と中学生2児の母親
更年期障害真っ只中で漢方処方を日々研究中