「がん」は、日本における死因のトップであり、今では3~4人に1人が「がん」で亡くなる時代となりました。
人間の体は、約60兆個という沢山の細胞からできています。細胞→組織→臓器と成り立っています。正常な細胞は、新陳代謝により死んだ細胞と新生した細胞のバランスをとり体の形を維持しています。細胞の入れ替わりは、細胞内の遺伝子の変化によって調整していて、その調整に何らかの原因で異常が起こると、異常な細胞が増え続け「がん」となります。「がん」は異常に増殖し続け、その組織や臓器は元の生理機能を次々に失っていきます。
また、周囲の組織や臓器に浸潤し、リンパ管や血液によって他の部位に流れて転移します。同時に、「がん細胞」からトキソホルモンなどの毒素を作り出し、人体に色々な毒作用を与えます。
発見が早ければ完治確率も高くなりますが、遅れると再発率が高く、完治は難しくなります。
「がん」は、細胞の遺伝子異常によって起こった細胞の形成異常です。「がん遺伝子」は、誰にでもあり、普段はおとなしいものです。しかし、正常な細胞が長期間に様々な「発がん因子」の影響を受けて、複数の遺伝子変異が起こると、細胞に狂いが生じ、異常増殖をくり返して腫瘍になります。また、正常な細胞が「がん化」するには長い時間がかかります。
ただし、細胞内に「発がん物質」が入っても、通常は「がん抑制遺伝子」やDNA修復遺伝子のような人体の自己防衛システムなどの存在で、多くは増殖することが出来ません。「がん抑制遺伝子」の働きが悪いと細胞が「がん化」して、分裂・増殖をくり返していきます。
通常、第1段階~第3段階まで、10~30年かかると言われています。一般的な検査で早期発見できるのは、第2段階から第3段階に移行するあたりです。
「がん抑制遺伝子」は、親からの遺伝ではなく、その人個人が持っている遺伝子です。「発がん物質」によってDNAに異常が起こると、細胞のコピーに必要なDNAの合成を阻害するため分裂・増殖できず、細胞は死んでしまいます。
「がん抑制遺伝子」が正常に働いていれば、細胞のガン化を抑えることが出来ます。しかし、うまく機能しないと、細胞が突然変異によってガン化して、ガン化した細胞の増殖が始まってしまいます。
「がん抑制遺伝子」が異変を起こす原因は様々です。「発がん物質」には、放射線や紫外線、排気ガス、食品添加物、化学物質、アルコール、タバコ、食品のカビ、ウイルス、細菌、肉や魚の焼け焦げなど、数え挙げればきりがありません。
ホルモンの分泌異常や体内で発生する活性酸素が引き金になる場合もあります。
また、「がん」は生活習慣との関りも深く、特に食生活と喫煙が大きな原因となっています。生活の不摂生や加齢による免疫力の低下によって、「発がん物質」を解毒したり、傷ついたDNAを修復したり、変異した細胞を除去する自己防衛システムが低下することも、「がん」の発生・進行に深く関わっていると考えられています。
「国立がん研究センター」の統計によると、男性に増えている「がん」は、肺がん、胃がん、大腸がん。女性に増えているガンは、大腸がん、肺がん、乳がんとなっています。
◉ 大腸がん
食の欧米化による高脂肪・高タンパクで、食物繊維の少ない食事が原因。
消化液の一つである胆汁酸の分泌過剰や便秘などにより、大腸内での発ガンが促進されます。男女ともに増加傾向です。
◉ 胃がん
健診の普及や治療法の進歩によって死亡率は低下しましたが、罹患率は男女ともに高い。原因は塩分のとり過ぎや、ピロリ菌の繁殖、喫煙習慣など。食生活の改善や禁煙、ピロリ菌の除菌によって予防できます。
◉ 肺がん
近年、急速に増えているガンで、男性の部位別死亡率では1位、女性は2位。主な原因はタバコですが、大気汚染、アスベストなどの化学物質、偏食なども原因になると考えられています。禁煙が最大の予防になります。
◉ 乳がん
女性では年代を問わずに増えているガン。
女性ホルモンのエストロゲンが発ガンをうながすため、出産経験がない人や初産年齢が遅い人のリスクが高いです。
自分で発見しやすいガンなので早期発見が可能です。
中医学では、人それぞれ固有の体質を持っていると考えます。体質といっても『生まれ持った「がん」体質』と言うわけではありません。その人の体質が健康な状態から悪い方へ傾くと、「がん」が発生しやすくなると考えます。
「体質」は日々常に変化しています。「がん」に限らずどんな病気でもそうですが、バランスがとれていれば健康な状態で、バランスが崩れると病気が発症しやすくなります。
中医学では、体全体のバランスを整えて、体が本来持っている自然な免疫力や回復力を高めることで、ガンに対抗できる体をつくるのです。
西洋医学の「がん治療」は、手術・抗がん剤治療(化学療法)、放射線治療が中心です。これらはいずれも「がん細胞」そのものを取り除いたり攻撃したりするもので、同時に正常な細胞にもダメージを与える恐れがあります。特に体を外敵から守る免疫細胞が攻撃されると、免疫力も低下してしまいます。(*免疫細胞とは、体外から侵入した異物や病原体、体内の悪性新生物(腫瘍(しゅよう)細胞)などを認識し特異的に攻撃する免疫反応をおもに担当する細胞のこと)
中医学(東洋医学)では、先ほども書きましたが、体全体のバランスを整える事を重視しています。自然治癒力や免疫力などを高めることで、「がん」に対抗できる体をつくるのです。また、それによって西洋医学の薬に対する反応も高まり、「抗がん剤」などの効き目を助けたりもします。同時に、体力の回復を養うことで「抗がん剤」や放射線治療で受けたダメージや、副作用を和らげる事も可能になります。
西洋医学では、一般的に「がん」が出来た部位・段階によって、治療法が選択されます。それに対して中医学では、一人ひとりの体質や体調に合わせて異なる漢方薬を用います。元々の体質を考えることはもちろんですが、病状や西洋医学の治療で受けた治療の影響なども重視した上で、身体の回復力を高めていきます。
こうした一人ひとり異なる、オーダーメイド出来るのが漢方薬の特徴です。また、中医学では体だけではなく心の状態も整えます。治療や副作用のつらさ、病気への不安や恐怖など様々な思いがあり、気持ちも不安定になりがちだと思います。精神的なストレスや不安感は、「気」のめぐりを悪くします。漢方薬で、気のめぐりを良くすることで、ストレスを上手く流せるようにしたり、精神的な安定を図ることが出来ます。
漢方薬を取り入れることで、身体だけでなく心のバランスも整えることが出来ます。
「がん」に対する漢方薬には、大きく3つの働きがあります。
「抗がん剤治療」や放射線治療は、「がん細胞」をターゲットにして行われるものですが、実際には、正常な細胞まで攻撃されてしまいます。免疫細胞の1つでもある白血球も攻撃を受け、さらに免疫細胞を作り出す骨髄細胞もダメージを受け、免疫力が低下することもあります。また、内臓など体の機能も弱くなりがちです。
漢方薬は、体全体の抵抗力や治療によるダメージの回復力をサポートすることが主になります。
西洋医学の治療は効果の反面、様々な副作用もあります。放射線治療では、口の渇き、口内炎、食道炎、皮膚炎、食欲不振、倦怠感などが起きますが、中医学では、熱や炎症といった「熱毒」から引き起こされている症状と考えます。
「抗がん剤治療」でも、発熱やむくみ、吐き気、下痢などの副作用が起こります。同じ「抗がん剤治療」・放射線治療でも人によって副作用の出方が違うのは、その人の体質によって「熱毒」の性質が違うからと考えます。
漢方薬は、その人の体質はもちろん、熱毒の性質に合わせたものを用いることで、副作用を和らげます。
瘀血(おけつ)とは、血のめぐりが悪くなり滞っていることです。血のめぐりが悪くなると、酸素と栄養を体の隅々まで運ぶ機能や、老廃物を排泄する機能が低下してしまいます。「抗がん剤」などの治療薬は、血流にのって全身をめぐり、目的地に届いて効果を発揮します。でも、瘀血があると、薬が目的地に届きにくくなり効き目が悪くなってしまいます。また、体の隅々まで栄養が行き渡らなくなるので、薬の刺激を受ける受容体(レセプター)の反応も鈍くなります。
漢方薬は、瘀血を改善して、薬の治療効果を高めるサポートを行います。
これら3つの働きは、それぞれ独立して働くわけではなく、瘀血の改善、熱毒の排泄を助けることによって、抵抗力や回復力が高まります。また、抵抗力が高まることで熱毒をうまく排泄できるなど、相互に支えあって効果を上げ、いずれも、西洋医学の治療をサポートします。
漢方薬だけで治ると断定できる「がん」はありません。
まれに「がん」が小さい場合には、漢方薬によって免疫力が高まり、「がん」を抑制する生薬を併用することで、小さくなったり、消失する場合もあります。
ですが、漢方薬だけで「がん」が治るということは期待できません。あくまでも、手術や「抗がん剤」・放射線療法などの西洋医学的な治療と組み合わせることによって、治る確率が上がると考えています。
また、漢方薬の効き目には個人差があり「がん」の程度も様々なので、西洋医学的な治療、漢方薬、生活習慣の改善なども必要になります。
中医学では「がん治療」の対象は「がん自体」だけでなく、「がん」に罹っている体全体であると考えます。ですから、その人の体質によって同じ部位に出来た「がん」でも違う漢方薬を用いる場合も多々あります。
胃や腸などの消化器系の「がん」では、食欲が落ち、それによって体力も低下しやすくなるので、消化機能を助け、体力を高めるような治療漢方薬を中心に使います。また「肺がん」には呼吸器の機能を補う漢方薬や生薬を用います。「肝臓がん」では、肝の解毒作用を助け、肝を補う漢方薬や生薬を用います。
漢方薬の原料でもある生薬には、それぞれ「帰経(きけい)」があります。帰経とは、生薬や食材が身体のどの部分に影響があるかを示したもの。五臓と呼ばれる「肝・心・脾・肺・腎」のどこに作用するのかが決まっているのです。ですから、それぞれの部位に合った漢方薬を使うことで、さらに効果が上がります。
西洋医学の治療と漢方薬の併用は、基本的には問題ありませんが、当店では念のため、主治医に許可をもらってから漢方薬を服用する事をおすすめしています。
また漢方薬は、ずっと同じ処方を用いるのではなく、体質・体調に合わせて漢方薬も変更する場合もあります。例えば、放射線治療では、体が熱で乾燥気味になるので、体を温めたり、渇かす作用のある漢方薬は基本的に使いません。体を潤す作用のあるものを用います。
このように、西洋医学の治療と併用することによって副作用を軽減することもできます。
治療の時期、体調によって用いる漢方薬も違いますので、その都度ご相談ください。
「がん」に罹ったことのある人は、体質の上で「がん」に対する抵抗力や免疫力、回復力が弱い傾向があるようです。ですから、治療の後も再発予防のために漢方薬の服用をおすすめします。
その場合は、免疫力を高め、体質を改善する意味で、ご自分の状態にあったものを、なるべく長く服用するようお話ししています。
国立がん研究センターがん予防・検診研究センターがまとめた「がんを防ぐための新12か条」が、がん研究振興財団から2011年に公開されました。
この新12か条は日本人を対象とした疫学調査や、現時点で妥当な研究方法で明らかとされている証拠をもとにまとめられたものです。
(日本対がん協会より)
このほかにも、ストレスや過労、睡眠不足、加齢なども病気に対する免疫力・抵抗力を弱くしてしまう原因になります。「がん」だけでなく、どんな病気に対してもですが、バランスの取れた食事を心がける、ストレスはためない、睡眠をしっかりとる、適度な運動をすることで、健康な体を保つことが出来ます。