何かとストレスの多い今の時代「うつ」の症状は増加傾向にあると言われています。
特に女性はうつになりやすく、その発症は男性の2倍とも言われるほどです。
月経・出産・更年期など、女性には精神不安を起こしやすいさまざまなタイミングがあります。
生涯を元気に過ごすためにも、心身の積極的なケアを心がけましょう。
「血(けつ)」と深い関係の女性のうつ
中医学の基本には「心身一如」という考えがあります。これは、心と身体は一つのものであり、互いに強く影響し合っているということ。こころの不調は身体に悪影響を及ぼし、身体に不調があればこころのバランスも崩れやすくなります。
「うつ」の症状もおなじこと。直接的な要因は精神的なストレスでも、身体が元気なら気持ちも安定しやすく、ストレスを上手にコントロールできます。反対に、身体に不調がある時は、同じストレスでもダメージを強く受けてしまうのです。
女性がうつになりやすいのは、体質的に「血(けつ)」の不調を招きやすいためです。
中医学でいうところの「血(けつ)」は身体に栄養や潤いを与えるほかに『精神を安定させる』という働きもあります。
そのため、月経や出産、更年期などの要因で「血虚(けっきょ)」=血不足になると、PMS(月経前症候群)、産後うつ、更年期の精神不安といった心のトラブルを起こしやすくなるのです。
また、女性は身体が冷えやすく「瘀血(おけつ)」=血行不良になりやすいことも要因の1つです。血行が悪いと、ストレスをコントロールする「肝」や、精神状態と関わる「心」の働きも落ちてしまいます。その結果、精神的な不調を招きやすくなるのです。
このように、女性のうつ症状はまず体内の「血」の状態を健やかに保つことが大切です。日ごろの養生で血虚や瘀血を予防し、ストレスに強い身体づくりを心がけましょう。
うつ症状の中医学的養生
体調を整えながら精神を安定させる中医学の養生は、軽いストレスやうつ気分などの小さな不調の改善にも役立ちます。症状を悪化させないためにも、日ごろのケアを心がけて心身を健やかに保ちましょう。
「気」「血」を充実させる
体内の「気」と「血」は、身体とこころの健康を支えるエネルギー源。気血が充実していれば心身は元気に保たれ、ストレスへの対応力も強くなります。
反対に、気血が不足していると体調を崩しやすく、ストレスのダメージにも弱くなってしまうのです。
女性は、月経や出産などで気血を消耗しやすいので注意が必要です。日ごろからバランスの良い食事を心がけ、不足しがちな気や血を十分に養いましょう。
また、食事の栄養をしっかり消化・吸収するためにも、暴飲暴食、冷たい飲食などは控えて「脾胃(ひい)」=胃腸を元気に保つことが大切です。
気になる症状
【気虚】・・・気力が出ない、ストレスに弱い、息切れ、疲れやすい、朝からだるい、カゼを引きやすい、食欲不振、めまい、声が小さいなど
【血虚】・・・情緒不安定、落ち込みやすい、睡眠障害(寝つきが悪い、眠りが浅い、早朝に目が覚める)、顔が青白く艶がない、めまい、動悸、脱毛、記憶力の低下、月経不順、月経量が少ないなど
【食養生】温性で気・血を補う食材
大豆製品、小麦、豚肉、羊肉、レバー、鶏肉、卵、かぼちゃ、山芋、インゲン豆、にんじん、クルミ、ほうれん草、黒ゴマ、落花生、じゃがいも、栗、なつめ、クコの実、黒砂糖など
【よく用いられる漢方薬】
婦宝当帰膠、心脾顆粒、補中益気湯、健脾散エキス顆粒、健胃顆粒、六君子湯など
冷えによる「瘀血」を改善する
五臓の「肝」は、血を貯蔵してストレスをコントロールする臓器。また、「心」は血を全身に巡らせ、精神状態とも密接に関わっています。
そのため、身体の冷えなどで「瘀血(血行不良)」になると、血と関わる肝や心の働きが低下して、うつなどの精神トラブルを起こしやすくなるのです。
女性は月経や出産、更年期などの時期に血が不足しがちで、冷えによる瘀血を招きやすいので気をつけましょう。冷たい飲食や薄着は控える、シャワーで済ませず湯船に浸かって温まるなど日ごろから身体を温めるように心がけ、血行の良い状態を保ちましょう。
気になる症状
冷え性、しもやけ、手足のしびれ、むくみ、夜間頻尿、頭痛、関節痛、生理痛、肩こり、子宮筋腫・卵巣嚢腫・子宮内膜症などの病気がある、唇が紫色、目の下のクマがあるなど
【食養生】血の巡りを良くする食材
しょうが、ネギ、玉ねぎ、にんにく、よもぎ、シナモン、山椒の実、サフラン、納豆、羊肉、エビ、イワシ、サバ、赤ワインなど
【よく用いられる漢方薬】
冠元顆粒、血府逐瘀湯、桂枝茯苓丸、温経湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、当帰建中湯など
「気」の巡りを整える
中医学では、うつの症状は主に「気」のめぐりの停滞によって起こると考えます。気の巡りは「肝」の働きでスムーズに保たれていますが、過剰なストレスや血不足などが続くと肝の機能が低下します。
その結果、気の巡りも停滞してうつ症状を招いてしまうのです。また、精神状態と深く関わる「心」の不調も、うつを症状を引き起こす要因となります。
うつの症状を悪化させないためには、初期の段階できちんと対処することが大切です。
なんとなく気分が憂うつ、イライラしがち、眠りにくい・・・そんな小さなこころの不調を感じたら、症状が軽いうちに早めに対処しましょう。
日ごろから落ち込みやすい人、ストレスを感じやすい人などは、特に意識してこころの声に耳を傾けましょう。
初期のうつ症状の改善は、ますストレスを取り除きながら、肝と心を整えることが基本です。ゆっくりお茶を飲んでリラックスする、睡眠を十分にとるなど、こころの疲れをこまめに回復させることが大切です。
主な症状
憂うつ感、落ち込み、ため息が多い、涙もろい、怒りっぽい、イライラする、胸苦しい、喉が詰まる感じがする、不眠、不安感、頭痛、肩こり、眼精疲労、胸や脇腹が張る、PMSなど
【食養生】香りが良くストレスを発散させる食材
ミント、ジャスミン、カモミール、陳皮(ミカンの皮)、春菊、セリ、三つ葉、コリアンダー、セロリ、金針菜、酢、かんきつ類、いか、あさり、しじみなど
【よく用いられる漢方薬】
逍遥顆粒、加味逍遙散、心脾顆粒、天王補心丹、半夏厚朴湯、抑肝散加陳皮半夏、甘麦大棗湯、酸棗仁湯など
暮らしの養生
・睡眠をしっかり取る
・夕方以降のカフェインは控えめにする
・育児などで夜に睡眠が取れない場合は、子供と一緒に昼寝をする
・冷たい飲食は避け、食事は三食バランスよく食べる
・適度な運動を心がけて、気の巡りを良くする
・緊張やストレスを感じたら、まずは深呼吸をする
・毎日入浴して、身体を温め血行を良くする
・悩みは一人で抱え込まず、周りの人に相談する
・鍼灸治療に通う ※西山鍼灸院もご利用ください
いかがでしたか?こころの不調を感じたら、初期のうちに改善することが大切です。
日ごろのケアを心がけて心身を健やかに保ちましょう
【この記事を書いた人】
創業明治34年 漢方薬の西山薬局
四代目 薬剤師 西條ゆみこ
漢方薬局に生まれ幼少期から生薬に囲まれて過ごす
大学生と中学生2児の母親
更年期障害真っ只中で漢方処方を日々研究中