加齢とともに増える尿のトラブル
咳やくしゃみをしたとき、重い荷物を持った瞬間など、力を入れた時に思わず尿が出てしまった・・・といった経験はありませんか?
こうした尿漏れの症状は年齢とともに増え、特に40歳代以降は多くの人が悩みを抱えていると言われています。
その原因は、加齢や運動不足による尿道括約筋の低下、女性の場合は妊娠・出産による骨盤底筋の緩み、男性の場合は前立腺の肥大など様々です。
漢方の中医学では、尿漏れの症状は主に「膀胱」と「腎」の問題と考えます。
膀胱は、尿を溜めて排泄する機能を持つ臓器。腎は尿を生成する臓器で、体内の水分代謝も担っています。
互いに深い関りを持つこの二つの臓器が協力し合って排尿をコントロールしているため、膀胱や腎の働きが弱くなると、尿漏れなどのトラブルが起きるのです。
尿のトラブルは人にもなかなか相談しにくく、病院の診察も受けないケースが目立ちます。
深刻な病気ではありませんが、外出先でも常に心配がつきまとう、下着を何度も変えなければならないなど精神的な負担は大きいものです。
また、放っておくと症状が重くなるので、軽い尿漏れの段階から改善するよう心がけましょう。
~タイプ別養生法~
疲れによる尿漏れ「脾虚タイプ」
脾胃は、食物から栄養分を吸収して全身に運ぶ役割を担っています。
また、内臓が定まった位置にあるように下垂を防ぐ働きももっています。
この脾胃の働きが弱くなると、栄養不足から膀胱や腎の機能が低下するだけでなく、骨盤底筋がゆるみ、内臓まで下がって膀胱や尿道が圧迫されます。
脾虚タイプは普段から疲労感や倦怠感が強く、息切れ、食が細い、便に粘りがある、下痢気味などの症状が現れます。疲労が溜まると尿漏れが酷くなるため、脾胃の機能を高め、基本的は体力を養うようにしてください。
【主な症状】
疲れると尿漏れが酷くなる、疲労感、倦怠感、食が細い、息切れしやすい、便に粘りがある、下痢気味など
【食養生】自然な甘味があり気を補う食材
米、さつまいも、かぼちゃ、ハスの実、鶏の砂肝、りんごなど
【漢方薬】
麦味参顆粒、補中益気湯など
頻繁な尿漏れ「腎虚タイプ」
中医学の考えでは腎は尿を生成し、膀胱に対して「尿を出す・止める」という指令を出しています。また、腎は体内の水分代謝をコントロースする役割も担っています。
生命エネルギーの源である腎は、加齢とともに自然とその機能が低下します。女性は更年期を迎えるころ、男性は初老のころから腎が弱くなり始めるため、尿漏れなどのトラブルが起きやすくなるのです。
このタイプの尿漏れは頻度が高く、夜の頻尿も気になるようになります。また、腰痛、腰の冷え、足腰が弱くなる、めまい、耳鳴り、物忘れ、むくみ、前立腺の肥大といった症状も現れます。
腎の機能を高めることは、尿のトラブルはもちろん身体全体の老化防止にもつながるので、積極的な養生を心がけましょう。
【主な症状】
頻繁な尿漏れ、夜間の頻尿、腰痛・腰の冷え、めまい、耳鳴り、物忘れ、むくみやすい、足腰が良くなる、前立腺の肥大など
【食養生】腎を補い温める食材
山芋、クルミ、松の実、くり、ごま、クコの実、ニラ、銀杏、羊肉など
【漢方薬】
八味地黄丸、牛車腎気丸、海馬補腎丸など
寒さによる尿漏れ「陽虚タイプ」
尿のトラブルは、夏よりも寒さの厳しい冬に多くみられる症状です。冬は汗をかくことが少なくなるため膀胱にたくさんの尿が溜まり、寒さで尿意も感じやすくなります。
ただし、夏場も冷房で冷える方は注意しましょう。
陽虚の体質の人は特に冷えの影響を強く受け、尿漏れを起こしやすくなります。
日ごろ下腹部の冷え、慢性的な冷え性、顔色が白い、関節が傷みやすいといった症状がある人は特に「冷え」に対しての養生に注意しましょう。
身体を冷やさないように心がけ、特に膀胱や下腹部、腰などは温めるようにしてください。
【主な症状】
冷えによる尿漏れ、頻尿、下腹部の冷え、慢性的な冷え、顔色が白い、関節が痛みやすいなど
【食養生】温性で身体を温める食材
生姜、ネギ、シナモン、ニンニクなど
【漢方薬】
婦宝当帰膠、桂枝加竜骨牡蠣湯など
尿漏れ予防の養生法
・ストレスを溜めない
・睡眠をしっかりとる
・お風呂であたたまり適度な発汗を促す
・夏でも下腹部は冷やさない
・骨盤底筋(尿を出す・止める役割)を鍛える体操をする
*骨盤底筋を鍛える体操
1.肛門と膣を体の中に絞り込み、膀胱を上に上げるイメージで力を入れる
2.その状態で5秒キープする
3.全身の力を抜く
これを2回繰り返して1セット
1日5~8セットを毎日続ける(時間はいつでも良い)
尿のトラブルは精神的な負担が大きいものですが、あまり神経質にならないことが大切です。過度な緊張やストレスは、心にも身体にもさらに負担となります。
特に尿漏れは、早いうちから予防することが可能です。「年だから・・・」などと思わずに養生を心がけて、いきいきとした毎日を過ごせるよう心がけましょう。
【この記事を書いた人】
創業明治34年 漢方薬の西山薬局
四代目 薬剤師 西條ゆみこ
漢方薬局に生まれ幼少期から生薬に囲まれて過ごす
大学生と中学生2児の母親
更年期障害真っ只中で漢方処方を日々研究中